リハビリというのは、結局は「自分で」やるものです。しかし、突然の病気で障害を負うと、身体だけでなく心も傷つきます。心が傷ついた患者さんから、どうやって主体性を引き出すのか?これは、リハビリに関わる私たち専門職にとって、もっとも重要なテーマの1つと言えると思います。
以前リハビリクリニックをやっている先生に聞いたことがあります。「本人がその気になるまで、傍でじっくり待つんだよ。失語症のためにコミュニケーションが難しく、家でふさぎ込んでいたこの患者さんは、人前に出られるようになるまで10年かかった。」
私たちは、努力を患者さんに強要するのではなく、また何でも手を添え介助してあげるのでもありません。本人が「やる気」になるよう仕向けながら、じっくり待ち、共に歩む姿勢が必要となります。患者さんが自分で目標を見つけ努力できるようになるまで、機能を高めるリハビリだけでなく、生活能力や周囲の環境を整え、患者さんの「居場所」や「出番」を作りながら、少しずつ主体性を引き出すよう関わること、すなわち目標が「持てる」ようになるためのサポートが必要です。そして、自ら目標が持てるようになったら、今度はその目標が「実現できる」ようサポートしていきます。
西広島リハビリテーション病院では、「退院3ヶ月後の生活目標」を、入院2週間後のカンファレンスで設定することにしています。今まで個別に立てているケースはありましたが、全患者さんに対して目標を設定するようにしました。
これはやってみると、中々難しいことが分かりました。入院中であれば、「トイレ動作の自立」、「杖歩行が○m可能」といったような動作に関する目標になることが多いのですが、「生活の目標」となると、その人の身体の状態だけでなく、生活歴、家族や家屋を含めた生活環境等の社会的情報を十分に把握しておかなければ立てられません。職員の立てた退院後の目標を見ると、まだまだ入院中と変わらないような目標もありますが、「国道の横断歩道を青信号のうちに渡る」、「畑の草抜きができる」、「妻と一緒にスポーツセンターのプールを歩く」というような、その人ならではの目標を立てているケースも増えてきました。
退院後の生活目標は、生活期のスタッフとの情報交換のツールとしても役立ちます。地域のケアマネージャーや生活期スタッフと合同で行う退院前カンファレンスでは、回復期スタッフと生活期スタッフの間の共通言語が少ないため、相互理解が不十分であったり、退院後の生活を想定した入院リハビリが不十分であるという意見が聞かれるなどの課題がありました。しかし、具体的な「退院後の生活目標」があることで、それをキーワードにして、患者さんの医学的状況やADL、社会的背景を含めた情報交換ができるようになり、退院前カンファレンスも効率的で有意義なものになりました。また、その立案した目標に対する結果が生活期から回復期へフィードバックされることで、回復期リハに関わるスタッフの教育にもなっています。
当法人には、今から20年以上前に、初代理事長が掲げたリハビリテーション理念があります。「患者さんが主役のリハビリテーション」と題し、「失われた機能が完全に元通りに回復するとは限らない」こと、「障がいと共にありながら、積極的に社会参加を行うことが出来る能力と精神力を身につけ、自分らしさを取り戻し、自立した生活を送ることこそリハビリテーションの最も大切な目標」であることを謳っています。当時は、患者さんに厳し過ぎるのではないかという声が多くあがりました。しかし、初代理事長は、「リハビリというのは誰かにしてもらうのではなく、自らのために自ら行うもの。患者さん・ご家族の意識改革が一番大切なことだ。」と考えていたのです。その後一部表現は変わりましたが、その信念は今も変わることなく、当院の理念として生きています。
今後の方向性として、入院してリハビリができる期間はますます短くなっていくでしょう。その中で、私たちは入院中から、患者さん・ご家族が「自分で」地域生活やリハビリが継続できるよう、その方法だけでなく心構えも伝えていかなければなりません。どんなに医療技術が発達して、良い訓練機器やロボットが登場しても、その人の生活を豊かにする夢や目標を共に考えサポートする仕事は、私たちの大切な仕事として残ることでしょう。
医療法人真正会は、設立理念を「老人にも明日がある」とし、医療の原点は福祉であり、地域なくして医療は成り立たないというビジョンを持っています。
急性期後の医療から在宅生活への橋渡しをする、複合的サービス体系を有しており、患者さん・利用者さんの福祉(生活)を中心に据えています。
画像にあるように当院の1階は、ガレリア(galleria)という吹き抜けの空間の中に、カフェやコーヒーショップ、コンビニエンスストア、ギャラリーなどが入っています。朝には手作りのパンが焼ける香りなども立ち込め、病棟から降りていきたい、自分で歩いて行けるようになりたい。飲みたいもの、食べたいもの、見たいものなどを自分で考え、決める事の自己決定に繋がる材料がちらばっています。病院全体で、自分で選ぶことへの意識化に取り組んでいます。
入院相談からも主体性の再構築へのアプローチが入っています。
病状やADLなどの事実確認だけでなく、家族との歴史や今後についての想いも共有し、エンパワメントに努めています。また転倒事故などにも触れ、身体抑制をしないケアやその内容を伝え、協働のパートナーとして、互いが同意し入院とするプロセスを歩んでいます。
このリビングエイドマップ(Living-Aid Map)は、病院の1階部分全体を使い、日常生活で必要となる物品や福祉用具などを、利用する場所で実際に触れて、試してみることが出来ます。これによっても、患者さん・利用者さんの生活への主体性が向上していきます。
『4月21日勉強会に期待を寄せて』 菅原健介(理学療法士)より
『回復期リハビリテーション病院はデンマークでは存在しません。
それは病院での機能訓練をすることより、失った機能に目が向いてしまう事が、現状を受け入れ、今を楽しく過ごす(本来のリハビリテーション)を妨げてしまう一因であるためです。日本のリハビリテーションの在り方についても、財源不足もあり、そういった方向になっていると聞いています。
その逆風ともいえる中、厚生労働省に回復期リハビリテーションの有用性をデータとして
提出されたのが石川誠さんです。石川誠さんがセラピストの有効性を国に示してくださったからです。
回復期リハビリテーション病院が存続することが『良い』かどうかは、僕にはわかりません。
ただ、今の回復期があるのは、間違いなく、石川誠さんの力が大きいと感じています。
今後、病院や地域でセラピストに求められることは何か、石川さんのお考えを全てのセラピストが聞いた方が良いのではないかと感じています。』 子どもと創る☆小規模多機能型ホーム『ぐるんとびー駒寄』代表取締役社長
1:山梨県 理学療法士より
患者像を包括的に捉えるとはどのようなことか。もちろん、徒手的介入で心理状態や身体状態を捉えることも患者像を捉える重要な1つの方法です。しかし、リハビリテーションには様々な情報が必要です。医学的情報はもちろんのこと、その人が今まで歩んできた生活歴、地域との関係性、家族との関係性等すみ慣れた地域での役割も重要な情報の1つです。もちろん、自宅環境や1日の生活の流れなど様々な情報を知り得た方がより多角的に患者像を捉えることができます。リハビリテーションでは知り得た情報から、その人に合わしたアプローチが求められます。つまり、セラピストにはマネジメントを含む主体性が求められているのではないかと考えています。
2:福井県 作業療法士より
近年、活動や参加に焦点を当てたリハビリテーションが重要視されていることは地域包括ケアシステムの構築に向けた国の政策や医療・介護保険などの報酬制度からみても周知の事実である。もちろん、PT,OT,STのリハビリテーション専門職はこのことを認識し、日々の臨床を行っていると思われるが、実際に対象者の主体性を引き出すようなリハビリテーションを提供できているところは少ないようにも思う。ある施設ではOTは徒手療法などを行わず生活支援、退院支援を行っていたり、地域包括ケア病棟でOTが専従としてADL指導や家族指導を行っていたり対象者の主体性を重視し活動や参加に焦点を当てた介入を積極的に推進している。当院でもまだ十分ではないがPT,OT,STがそれぞれの専門性を発揮できるよう役割分担を明確にしている。今後、PT,OT,STがそれぞれの専門性を最大限に発揮して対象者やその家族と向き合い生活を再構築していかなければならないと考える。